建物の寿命

建物の寿命
今夜は少しまじめに…コーヒー 

 建物の寿命には、①物理的な寿命 ②機能的な寿命がある と学生時代教えられてきました。
 前者は構造強度上、材料の経年劣化による寿命です。鉄骨造なら錆による鉄骨の肉厚減少による構造耐力上の許容年数。鉄筋コンクリート造の場合は被り厚さ部分の中性化による脱アルカリ化の年数。木造建築は腐朽による構造上の耐用年数で考えるとわかりやすいですね。機能的な寿命とは、その名の通り、使用目的の目的を果たせなくなったときに、その寿命が尽きたとする考え方ですね。

 写真は昨年暮れに、喜多方の校舎の配管ピット内に潜った時の内部の配管写真です。上部の横引き配管は錆びていないのに対し、下部配管は完全に錆びています。背後のコンクリートをよく見ると、上部配管と、下部配管の間ので色が異なっています。ここまで水が浸水していたためと考えられます。大なり小なり、建築物はできあがってから、使用している間にだんだんと劣化していきます。その最も大きな原因の一つが水であり、建築物の寿命は水との戦いとも言えます。

 ところで、寿命の話に戻った場合に、日本と欧米では建築物の寿命に対しての考え方の基本が異なります。日本は、古来、木造建築で多くの建物を築いてきたため、建物を簡単に取り壊せる意識が国民的に強く、「建替文化」の国であると言えます。
 良く、「この家も手狭になったから建て替えようか」icon25 なんて日常的に聞く言葉ですね。(それでも最近は経済事情からなかなかそうもいかないのでしょうが…)。その良い例が、神社建築に見られる式年造替制という作り替えの建築文化でしょう。
  
 これに対して、欧米は、昔から建築材料を石材に求めてきました。そのため組積造という建築工法が主流となり、堅牢な壁を持つ建築物が築かれてきました。このため、建築物は一度建てたら壊せないとする考え方が主流となり、建築内部を模様替え等して使用する「リフォームの文化」が定着することになります。たしかに産業革命以降、鋼材の大量生産による鉄骨造の出現はヨーロッパ建築においては革命でしたが、今でも古い組積造の町並みが数多く残り、そこで生活していますよね。

 こうした建築物に対する考え方は、同時に自然に対する考え方の違いをも教えてくれます。紙と木で出来たふすまや障子等で
家の内外の区別を付けていた日本建築は自然と共存していく考え方に対し、厚い壁で内と外を遮られた国では自然を厳しい物としてと対峙する考え方が生じます。しかし、この考え方も今ではだいぶ薄れていますね。

 さて、話を建築物の寿命に戻します。つまり建築物を簡単に壊せてしまう日本では、機能的な寿命に必然的に重きが置かれたのに対し、丈夫な壁で構成されたヨーロッパでは構造的な寿命を建築物の寿命ととら得たのですね。

 蛇足ですが、日本の建築基準法の建築物の定義では、①柱と梁で屋根を構成しているもの ②壁と屋根で構成しているもの
の二つが建築物なのですね。つまり「柱と横架材で骨組みを作りその上に屋根が構成されている(この場合目隠しのための壁はいらない)もの」と、「石積みとうで壁造って、その上に屋根をかけたもの」の二つが建築物に該当します。言うまでもなく前者は日本建築、後者はヨーロッパ建築的な造りですね。もちろん日本にも校倉造りという木造による組積造的な工法もありましたし、ヨーロッパにもパルテノンのような柱の工法もありましたが…。

 この使用できる建築材料の違いが、主たる建築工法や、それに伴う建築寿命に対する考え方の相違を国民性として長い歴史の中で作り上げてきたのですね。そう考えると、奥が深いですね。 face02



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2008年10月01日 Posted bysetura at 22:26 │Comments(2)建築概論

この記事へのコメント
 だいぶ前に聞いた話なのだが、家の耐久性を下げるために庇を短くすると税金が安くなるようにしたという話を聞いたことがある。
 庇を短くすると壁に直接雨が当たるようになって、寿命がだいぶ縮むらしい。何でそんなことをするのかというと、立替を増やすことによって建築需要が増えるから。耐震基準の見直しとかも、立替を増やすためにやっているという噂を聞く。最近良く使う新建材もそうだと思う。あれは、接着している接着剤から有機溶媒が抜けると弾力がなくなり脆くなる、十年か十五年で強度がなくなりばらばらになってしまう。(そんなもん、家に使うな)床板とかに使われていることが多いが、柱とかにも使っている家があって要注意。地震がなくても倒れます。
 平均26年で立て直すなんて日本だけです。滅びちゃえ日本。こんな家ばかり作っていても環境にやさしいと謳っています。
 パソコン、テレビなんかでもそうですが、モジュール化すれば、買い換えないといけない部分はごく一部です。一体化するから買い替え時にすべてゴミ。
液晶パネルはバックライトを変えれば20年は持ちます。変えたい場合でも液晶ぱれるだけ変えられるようになっていればいいです。アンプやチューナー部分は十年位前からほとんど変わっていなし。変わっても、差分をネットでダウンロードしてフラッシュメモリーに書き込みで、終わりです。地デジで大量にテレビが捨てられます。いつまでこんな事するのだろう。中古市場に液晶ディスプレイが山のようにあるのであれに出力できるチューナーを作ればすむことなのに。
Posted by ナルヨウニナル at 2008年11月26日 18:08
ナルヨウニナル 様 コメントありがとうございます。
全く同感です。今は修理でなく交換の時代です。
携帯のバッテリー交換に行ったら、
「新しいのに変えたほうが安いです」
と、言われました。
地デジもそうですね。
何でも買い替えで、経済効果という言葉がニュースにでます。
物が売れないと経済効果が上がらないという図式になんでしょうね。
でも、自分もその波の中に、どっぷりとひたっているのも事実で。
長いはずの建物の寿命が短くなってしまっているのは残念なことです。
Posted by seturasetura at 2008年11月27日 08:22
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